いつだってそこには君がいた。
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お母さんが用意した浴衣は紺色だった。
落ち着いたその色の中に、艶やかな赤い金魚が泳いでいる、とても大人っぽいもの。
着付けしてもらい、鏡に映る自分に少しばかり見惚れる。
身体をくねらせてみたりして、後ろも確認。
「可愛いわよ、優梨」
「ありがとう、お母さん」
鏡の中です私の肩を抱いて微笑むお母さんに、私も笑みを返す。
そして巾着に財布やハンカチ、扇子などを入れ、約束の時間に合わせて家を出た。
カラカラ音が鳴る下駄に、歩くのがなんだか楽しく感じる。
夕日が沈みかけ、あたりも暗くなって来た。
さすがに夏は日が短い。
「あっ、優梨ちゃんこっちだよ!」
待ち合わせ場所の駅前の交差点にさしかかったところ。
赤信号で立ち止まっている私に向かって沙月ちゃんが手を振っていて、それにこたえるように手をあげた。
駅の入り口前にいるのは沙月ちゃんと結城くんだけで、高橋くんの姿が見えない。
まだ来ていないのかな。
そう思っていた時だった。首をかしげる私の肩に手を置き「ひーだか」と声をかけたのは高橋くん本人で。
心臓が飛び出るかと思うぐらい、びっくりした。