橘恋歌
それが何だったのかは幼い私にはやはりわかりませんでした。
それから、苦手な女房のお話、自身の父上の好きなところ、好きな食べ物など他愛も無いお話をしていたら、だんだん空が紅く染まっていきました。
「そろそろ…帰らなきゃ」
「私も…。中将に叱られちゃう」
お互い口では急いでいるものの、中々その場から離れようとしません。
「…君は、家は近いの?」
「えぇ、まぁ…。あなたは?」
「僕も、まぁまぁ」
ぎこちない会話が続きました。