橘恋歌
「よう…分かりました。すみませぬが、気分が優れないもので少し一人にして欲しいのだけれど」
「承知致しました」
そう言い、中将と女房たちが下がったところで、ずっと我慢していた溜め息が零れました。
「……橘の君…」
きっと逢う、と言うて下さったは嘘にございましたか?
今すぐここからどこか遠い処へ連れ去って欲しいのに…もう本当に逢えないのですか?
その時でした。
何処からか、懐かしい、優しい甘い香りが薫ってきたのは。