橘恋歌
「これは…」
立ち上がり、その香りを辿って弘徽殿に面している庭へ出ていきました。
「橘…」
そう言えば、その季節だったわと視線の先に在るは程好く熟れた橘の実。
それを見ていると、幼かった懐かしい“あの日”が思い返されました。
「私はずっと…」
お慕いしておりましたのに。
でも、もうその先を口にしてはならない立場となってしまいました。
…すると、後ろに人の気配を感じました。
「橘の香りに誘われて来てしまったのですが、貴女もですか」