橘恋歌
無意識のうちに頬を温かいものが伝っていました。
「…ずっと」
橘の君の綺麗な指でそれを拭って下さった…次の瞬間、私はその腕の中にいました。
「ずっと貴女を忘れられなくて。ずっと橘が支えでした。」
今、夢にまで見たあの方の腕の中にいる。
そんな身に余る幸せを噛み締めていた私は…あることに気が付き、顔から血の気が引いていくのが分かりました。
「橘の上…?」
私の顔色が変わったのに気付かれたのでしょう、橘の君は体を離して顔を除き込んできました。
その橘の君から、愛しい方から、私は後退り再び袖で顔を隠しました。