橘恋歌
――沈黙が辺りを包みました。
「…もう行かなければ、かような処へ居ると知られたら、貴方様もどうなるか分かったものではないのですよ。私のことは早うお忘れになって行ってくださりませ」
違う。
私はこんな…こんなことが言いたいのではない。
思ってもいない冷たい言葉たちが私の口から溢れ出ていきました。
「どうしたのですか、お行きにならないのですか」
震える声で言うも、返事はない。
暫くして、目の前から足音が聞こえました。
――ああ。
もう、本当に逢えない。
橘の君は行ってしまう。