橘恋歌
自分で言っておいて、無性に虚しくなり…先程より大粒の涙が溢れてきました。
そこで…あることに違和感を覚えました。
――足音が遠ざかっていない。
寧ろ近付いてきている…?
そう思い袖を下ろした先には、去ってしまったとばかり思った愛しの君が立っていました。
「御自身は忘れない、と仰るのに、私には忘れろと仰るなんて酷いなさりようですね」
橘の君は少し困ったような…変わらぬ笑顔のままでした。
「何故…お行きにならないのですか」
震える声のまま尋ねると、ふふ、と小さな笑い声を上げた橘の君はゆっくりと話し始められました。