うっかり持ってきちゃいました 2
 宰相さんちは家じゃなかった。ちょっとしたお城だ。一応お屋敷って呼べる範囲かもしれないけど、日本人の私からしたら、これはもう城レベルの豪華さだ。
 そんでもって兄に紹介された宰相さんは……めっちゃくちゃカッコ良いおじさまだった。

「お色気ダダ漏れなザ・大人の男!神様ありがとう!ビバお兄ちゃん!超優良物件どころか国宝級です!」

 長いまっすぐなハニーブロンドに淡い水色の瞳。恐ろしく整った顔。体の線がわかりにくいローブを着ているけれど、背が高くて袖から見えてる腕はしっかり筋肉がついている。
 何でも王様の、数人いる弟の一人らしい。てことはセレ王子の叔父さん。

「鼻血噴出剤になりかねないよ、何この最強兵器!私殺されるの!?」
「ちょっと落ち着けリコ、頼むから!いい加減にしないと、俺たち鼻血の前に首落とされるわ!」

 暴走してる私を、必死で押さえつけるフィル君。どうしようフィル君、お師匠様に並ぶ美形です。美形国家万歳!

「こんなに可愛らしいお嬢さんに褒めてもらえるとは光栄だ。私もまだまだ捨てたものではないね」
「言っとくけど、お前が思ってる年齢の、10歳くらい上だからなこの人。ほんっとここの王族は化け物級の美人ばっかりだよな」

 宰相さんが微笑みを浮かべて言う横で、兄が水を差した。歳の差がなんぼのもんじゃい!美人はそれだけで世界を救うんだい!

 美形の価値について本気で考察している私に向かって、宰相さんが姿勢を正す。

「私がリヒトの召喚を頼んだせいで、リコ嬢には辛い思いをさせたと聞いた。申し訳なかった。今まで帰還の術がなかなか完成しなくてね」

 こんな小娘にも頭を下げて謝ってくれる宰相さん。良い人じゃないか。私は慌てて両手を振る。

「いやいや別に!辛いとかないですし!」

 私の様子に、宰相さんは目元を和らげて口を開いた。


「君が望むのであれば、元の世界に戻る手はずを整える。もちろんリヒトも一緒に」



 私が何かを言う前に。
 私の右手がぎゅっと握りしめられた。

 見ればフィル君が、とっさに掴んでしまったのか、自分でも驚いたように目を見開いてその手に視線を向ける。私も同じように握られた手を見てしまった。
 いつもの通り真っ赤になって否定するのかなって思ったのに、フィル君はそれでも私の手を離さないまま、口を開く。

「こんな妄想変態女、今さら返したって世界の迷惑だし、俺とお師匠様に迷惑かけまくった反省もしてないし、クッキー買うのに立て替えてやった金も返してもらってないし、急にバイト抜けられたら店長も困るし、リコ気に入ってるお師匠様にブツブツ言われるの俺だし」

 何だこれ、ディスられてるよ、私!あのクッキー奢ってくれたんじゃないのか!店長はむしろ喜ぶんじゃないかな!

「セレ様にも絶対文句言われるし、限定ランチまだ頼んでないし、食事当番だってリコがサボった分やってもらわないとだし」

 え、いつまで続くのこれ。
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