裏腹な彼との恋愛設計図
駆け引きはブラックに
“隼人……元気? ちゃんとご飯食べてる?”
三ヶ月に一回ほどのペースで、定例のように留守電に残される母親の声。
その出だしの文句は毎回同じで、もう耳にタコが出来るほど聞き飽きた。
それでも一応聞いてしまうのは、俺にも多少親を想う部分があるからだろうか。
ブラックレザーのソファーに座る俺は、スマホを耳に当てながらネクタイを緩める。
どうでもいい世間話を少しされた後、締めくくる言葉もいつも同じだ。
“いつでも帰ってきなさい。母さんは、ずっと待ってるから”
じゃあね、と名残惜しそうな声の後、ツーツーと虚しい音が響く。
画面をタップすると、ソファーの上にスマホを軽く放り投げた。
「帰れるわけねーだろ……」
ため息混じりの呆れた声を漏らすと、重い腰を上げた。
1DKの、黒とウォールナットの茶色でまとめたモダンな部屋。
家出同然で一人暮らしを始め、このアパートにはだいぶ長いこと世話になっている。
専門を出た後、すぐに就職したミライトホームと同じ年数だ。
それと同じだけ、母親からの伝言も続いている。
俺は一回も出ないというのに、よく続けていると感心すらしてしまう。