裏腹な彼との恋愛設計図
絵梨子さんには俺がここに入社した当時から、二級建築士に興味があることを話していた。

だから、こうして今もたまにこんな話をしてくるのだ。


「もし受ける気になったら言いなさいよ。だいぶ古いけど参考書とかもあるし、わからないことあったら教えるから」

「ありがとうございます、絵梨子姉さん」


たまに茶化してこう呼ぶと、彼女は「まかせなさい」と得意げに笑う。

頼りになる彼女が財布片手にオフィスを出ていくのを見送り、デスクに広げた設計図に目を落とした。

ふいに、鈴森と交わした会話を思い出す。


『どうしてこの仕事をしたいと思ったんですか?』

『マイ・スウィートって映画を見て、だよ』


……まさか、あいつもその映画を見てこの仕事に就いたとはな。

少しだけ胸の奥が温かくなり、けれど同時に微かな痛みを感じる。


『結構有名だっただろ』

『……知らない人もいますよ』


あの時、ほんの少し憂いを帯びた表情で、鈴森が誰のことを言っていたのか。

俺の考えが正しければ、それは──。




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