裏腹な彼との恋愛設計図
ぶつぶつ呟きながら考えていたがすぐに思い出したようで、杏奈は目と口を開いて「あ!」と声を上げた。


「そうだ、“三好”! たしか三好さんって言ってたわ」


──その名前に反応して、ドクンと心臓が鳴る。

カップを置こうとした寸前にそれは指先から離れて、テーブルの上に転がった。


「ひゃ! ちょっと隼人ー」


急いでカップを取り上げ、自分のバッグからティッシュを取り出す杏奈。

フタをしていたからまだよかったが、テーブルの上には茶色の液体が小さな水溜まりを作っている。

それを見ても、俺は動くことが出来ずにいた。


「よかった、ちょっと零れただけで。これ捨てるついでに、お手洗い行ってくるわ」


杏奈は拭き取ったティッシュを片手に持ち、席を立つ。

そして、俺の横を通り過ぎようとする瞬間、咄嗟に彼女の手首を掴まえていた。


「……隼人?」

「本当に“三好”って言ってたのか?」


驚きと戸惑いを露わにした表情で俺を見下ろしながらも、杏奈はしっかりと頷く。


「うん……たしかに、三好っていう男の人だったって言ってたけど」

「そうか……」


彼女の手を離し、俺は思案し始めた。

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