裏腹な彼との恋愛設計図
仕方なく、街をぶらつく杏奈に二時間ほど付き合った。
最近駅前なんて歩いていなかったし、たまにはこういうのもいいか……そう思うことにして。
そうして、杏奈も帰りの電車の時刻を気にし出した頃。
道を歩く人達が、一様に同じ方を見てざわついていることに気付いた。
なんとなく俺もそちらに目を向けると、思わず足を止め、その光景に見入ってしまった。
……あれは、鈴森と矢城?
小柄な彼女を、矢城がしっかりと抱きしめている。
二人だと理解した瞬間、身体の奥から言いようのない感覚が沸き上がってくる。
ザワザワとして、不快で……とても嫌なモノ。
この正体が何なのか、わからないほどバカじゃない。
──彼女が俺の前に現れた時から、ずっと平静を保っていた心のバランスが崩れる予感がしていた。
杏奈が何年かけても崩せないというものを、彼女はきっと呆気なく壊す。
その予感はやはり当たってしまったと、この瞬間に思い知った。
「わー大胆! 今時のカップルって人前でイチャイチャするのも平気なのね~。……って、ちょっと待ってよ隼人!」
同じく二人に注目していた杏奈を置いて、俺は駅に向かって歩き出した。