裏腹な彼との恋愛設計図
会社の前の道路を通る車の音も、どこからか鳴る虫の声も聞こえない。

自分の心臓の音だけがうるさく響いて、クラクラする。


どうしてこうなっているのかも、何も考えられない。

意地悪なことばかり紡ぐ形の良い唇が、私のそれにぴたりと重なっている──

その感覚だけで、もう気絶してしまいそうだ。


目を見開いて固まる私とは反対に、彼はもう片方の手を頬にあて、角度を変えて口づける。

それがスイッチになり、ぎゅっと目を閉じた私はありったけの理性を集めて、弱々しく彼の胸を押した。


「ん、はぁ……柊さん、やっぱり酔ってる」


甘い吐息とともに、そんな言葉を漏らした。

唇は離れたものの、その距離わずか数センチ。

私の顔を固定したまま、一段と色気を増した声が囁く。


「かもな。でも……何の意味もなく、キスなんてしない」

「んっ──」


考える隙を与えないように、再び唇が塞がれる。

彼の顔を妖艶に揺らめかせるロウソクの炎が燃え尽きても、キスは止まなかった。



“何の意味もなく、キスなんてしない”

じゃあこのキスは、あなたも私のことが好きだという意味なの──?


そう思いたいけれど、そんな単純に考えてはいけない気がして。

心に引っ掛かる何かを取ることが出来ないまま、私は甘い熱に浮されるのだった。




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