裏腹な彼との恋愛設計図
「だ……誰だ君は!?」

「おい」


そうきたか。

警戒しているような父親に、思わずつっこんでしまった。

まぁ無理もないか。彼の記憶の中ではオタクスタイルの俺のままなんだろうし、まさか俺が一緒に来るとは思っていないだろうから。

鈴森と一緒で、言われなきゃわからないよな。


「お父さん、隼人よ。隼人も来てくれたの」

「や、まさか……」


クスクスと笑う母さんに教えられても、父さんは信じられないようで、俺をまじまじと見つめる。


「本当に隼人なのか……?」

「二人とも同じリアクションだな。つーか父さん、盲腸ごときでテンパりすぎ。しっかり病名を伝えろよ、心配するだろが」

「あ、あぁ、すまない……」


いきなり説教する俺に、キョトンとしたまま謝る父さん。

昔より痩せて、なんだか一回り小さくなった気がする。

それでも母さん同様、優しい面影をしっかりと残している彼は、躊躇いがちに口を開いた。


「……まだ、“父さん”と呼んでくれるんだな」


神妙な顔で俺を見つめる彼に、ぶっきらぼうに言う。


「当たり前だろ。俺の父親は一人しかいない」


無精髭の生えた冴えない顔が泣き出しそうに歪み、けれど口元は嬉しさを表すように口角を上げようとしている。

母さんはまた目元を拭い、温かく微笑みながら俺達を見守っていた。

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