裏腹な彼との恋愛設計図
「……本気?」

「冗談でこんなこと言えるかよ」


渇いた笑いを漏らし、バッグを持ってオフィスを出ようと歩き始めた、その時。


「鈴森さん、街で男と抱き合ってたでしょう」


杏奈の、何の感情もないような声が響き渡った。

振り返ると、同じように表情のない人形のような彼女が、俺を見据えている。


「……それがどうした」

「彼女、あの人と付き合ってるんじゃないの?」

「違うって本人が言ってたぞ」

「本当かしら? 自分を良く見せるために純情ぶったり、平気で嘘をつく女だっているのよ」


ドクン、と胸の奥の古傷が疼く。

記憶障害であるのをいいことに、俺に嘘を信じ込ませようとした女友達を思い出して。


……違う、鈴森は違う。

もう過去に囚われずに、あいつを信じようと決めたはずだ。

こんなことくらいで、気持ちを揺らがせたくはない。


わずかに葛藤し始める俺に、杏奈が一歩ずつ近付いてくる。


「隼人は、あの子がそういう女じゃないって信じられるの?」


目の前でぴたりと歩みを止めた彼女が、闇夜に妖しく輝き惑わす、黒猫のような瞳で俺を見上げていた。




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