海ホタル
「神立 茶和です。翔子さんと同じ秋森商業高校の1年生です。」

「ヘェ〜、サワちゃんってゆうの。可愛いじゃない。ねぇ、翔子」
色気むんむんの化粧の熱い着物を着たおばさんがタバコを咥えて、にっと笑った。
笑った顔は翔子のコピーのようだ。
「店では…愛ちゃんね。」
《愛ちゃん》。
もうひとりの私ができた日だった。

よく分からない言葉にポカンとするあたしを見てママはタバコを、タバコの溜まった灰皿に、じゅっとおしつけた。
「採用よ。よろしくね、愛ちゃん。」
やっと言葉の意味を理解した私にまたにっと笑うと、台所の奥に姿を消した。
なんだか喉が酸っぱかった。
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