On the way
Ⅰ1st set
「ちょっと気負いすぎなんじゃないのか?」
ふ、と小さなため息を落とした松崎が
ほれ と投げて寄越したスポーツ飲料のボトルを受け取った俺は
むしるように蓋を開けて一気に煽った。
「気持ちはわかるが
焦っていい結果が出るなんて事は100%の確率であり得ないぞ」
「分かっている」
「勝ちに行くのはいいが、勝敗だけに固執するのはお前らしくない」
勝敗に拘って何が悪い。俺はもうアマチュアじゃない。
今日のこの大会はグランドスラムだ。
ランキング上位の実力も実績もあるプレーヤーが参加している。
ここで彼らに勝つことの意味は大きい。
「勝たなければ意味が無い」
飲み干したボトルを握り潰した俺は松崎にキツい視線を向けた。
そんなものには全く怯む様子のない目の前の男は尚も冷静に言葉を重ねた。
「今日勝てなくてもランキングは落ちやしない。今のままだ」
「勝てば上がる」
「相手が悪い」
「それでも俺は負けない」
「・・・お前がそんな根性任せな台詞を吐くとは思わなかったよ」
まるで漫画の主人公だな、と苦く笑って眼鏡を上げた。
「冷静になれ。透」
「もう・・・俺には時間がない」
「少なくなっただけだ」
「同じことだ」
「いいや違うね。今年はまだ4ヶ月もある」
「たった4ヶ月じゃないか!」
「何を焦る?本当にお前らしくないぞ」
「勝手な事を・・・」
人の気も知らないで、と言いかけて俺は口を噤んだ。
こういう回り道も面白いだろう、と大学を休学し
この三年、俺のマネージャーとして過してくれた松崎が
俺の気持ちを知らないはずが無いからだ。
3年前に俺と両親がした約束のことを。
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