On the way

「元気だった?」

「まあな」

「逢いたかった・・」

「俺も・・・」

逢いたかった、の言葉ははるかの唇を掠め 吐息に溶けた。
背中に回っていたはるかの腕に力がこもった。
こうしてはるかに逢うのは日本を出てから今日が二度目だ。
昨年の秋、ジャパンオープンに出場するために帰国したときに
一度逢ったきりだ。


「でも・・せめて試合が終わるまでは、って言ったのよ?なのに松崎君が・・」

「マツが?何だって?」

「自分はちょっと確認したいことがあって本部にいくから
 これを透に渡してくれって頼まれて」



はい、と差し出された彼女の手にあったのは二つに折りたたんだ白い封筒だった。
それを取り上げて中を検めて、小さく噴出した俺は
訝しげに見つめるはるかを抱き寄せて、開きかけた彼女の唇をキスで塞いだ。


 「ん・・・っ?!」


もがきながら、慌てたように俺の背中を叩く手は
ちょっと待ってのジェスチャーか。
俺は薄紙一枚分ほど唇を離して彼女に「何だ?」と問うた。



「こんな・・・ダメよ!」

「キスが?どうして?」

「試合前なのよ?!集中しないと!」

「キスをしてても集中はできる」

「ん・・」



抗うはるかの唇にもう一度くちづけて
僅かに開いた唇から舌を差し入れ深く捕らえようとしたら
両手で俺の胸を押し返した彼女が顔を逸した。



「待って!まーって!」

「今度は何だ?」

「やっぱり試合前にこういうの・・よくないよ」

「そうか?」

「そうよ!」

「でもウチのマネージャーは賛成みたいだぞ」



え?と首を傾げたはるかにさっき渡された封筒の中を見せた。



「ちょ・・・何よコレ!」

「何って、コンド・・」

「うわあ、言わんでいい~~っ!」



見ればわかるから、と紅くなって俯いた彼女の腰を引き寄せて
項に唇を這わせた。

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