On the way

『 3年間で実績が作れなければ、テニスで生きていく道をあきらめる 』



その約束を前提に大学の休学と海外への留学を許してもらった。



スポーツで生涯食べていける人間というのはほんの一握りに過ぎない。
そしてその一握りであっても一生涯現役でいられる訳ではない。
ゴルフのようにシニアのクラスがある種目は別として
大方のスポーツは現役としての終幕を
最長でも30代の半ば頃には迎えざるを得ない。


一般社会でなら、中堅どころとして充実した仕事をこなし
安定した家庭を持ち、人生の花が開く盛りの時期を謳歌している頃だろう。



そんな時に現役を退く息子を不憫に思うのは親として当然だ。
願わくば大学を出て安定した職業につき堅実な人生を歩んで欲しいと
両親はその心情を吐露した。


俺が幸せであるように、と願う両親のその思いが分からないほど子供じゃない。
それでも諦める事ができなかったテニスへの思い。


18歳の時、ジャパンカップで優勝し名実ともに日本一になった。
それで充分じゃないかと母は言った。
19歳の時、出場したウインブルドンで3回戦まで進んだ。
目標を達成したじゃないかと父は言った。


でもそれは自分にとってただの通過点でしかなかった。
もっと自分を試してみたかった。計ってみたかった。
世界という階段をどこまで上がっていけるのか、と。



「わかったよ、透・・・」



そう言った父の出した条件は
3年の間に世界ランキングのトップ10に入ることだった。



「それが叶えばもう何も言わない。
 それ以降はプロ選手としてのお前を
 父さんと母さんは全力でサポートする。
 でも出来なければ世界に通用する力なしと諦めて
 復学しきちんと卒業して就職してもらう。 いいか?」



俺に異論も異存もなかった。
「ありがとうございます」と居住まいをただし
畳に額がつくほど深く頭を下げた。



そして他にもう一人、両親と同様に俺を思い
夢の成就を待っていてくれる人がいる。


俺を支えて心から愛してくれる大切な人が。


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