On the way
Ⅱ 2nd set

その人の名は 椎名はるか。


彼女との出会いは15の春だった。
淡く芽生えた想いを大切に育み守り、結実したのは18の春。


「卒業」の二文字が俺を駆り立てた。



学校へ行けば必ず会える。交わす挨拶。話す時間。
彼女と過す在って当然の日常。
でも卒業してしまえば それに甘んじてはいられなくなる。


はるかとの当たり前の日常を失いたくない。終わらせたくない。


そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。
君が好きだと伝えたい。いや違う。伝えるだけでなく
俺のものだと、誰にも渡さないとその華奢な体を抱きしめたい。



その思いだけだった。



はるかが自分を拒むかもしれないなどとは考えもしなかった。
決して自惚れていたわけじゃない。
ただ自分の想いを伝えたい一心だった。
後先すら考えられなくなるほどに
日増しに募る自分善がりな思いを抑えきれずに迎えた卒業式。



泣き笑う制服の輪の中に見つけたはるかの腕を掴み
攫うように駆け出して
早咲きの桜の幹に彼女の背中を押し付け
短い言葉に思いの全てを込めて告げた。


「好きなんだ。ずっと前から」


小さく息を呑んで、彼女は答えた。


「私の片想いだと・・・ずっと思ってた」



そう瞳を潤ませた彼女の唇に舞い落ちてきた桜の花のひとひらに
嫉妬したのか誘われたのか・・・俺は唇を寄せた。



その日から俺達は友達でも同級生でもなくなった。
互いに想い合う心を手繰り寄せ 重ねることのできる唯一の存在になった。

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