On the way
「そんな・・・お前」
「聞いて。あの、上手く言えないんだけど・・・えっとね・・・
ちゃんと覚えていたいの。あ、もちろん透の事は一秒だって忘れないわ。
あのね、ん・・・なんて言うかな。私の中にあなたを残してほしいの」
乞われるまでも無く、そうしたいと願っているのは俺も同じだった。
爪先からその髪の一筋にまで印を付けたい。
誰が見ても俺のものだと分かるように。
「でも、それは・・」
「透、お願い」
「やっぱり・・それはダメだ」
「どうして?ねえ、どうして?」
「ダメなんだ。どうしても」
これ以上はるかに執着してしまったら
俺はダメになってしまうかもしれない。
それが怖い。すまない、と心で何度も詫びながら
胸に抱いていた彼女の身体を押し戻した。
「透!」
「頼むから、わかってくれ」
「イヤよ!私を好きだって言ったじゃない!あれは嘘なの?」
「嘘なものか!本当に好きだから抱けないんだ」
「そんなの違う。違うよ、透。抱けないのは本当に好きじゃないからだわ」
「だから!そうじゃないと言っているだろう。どう言えばわかるんだ!」
「どう言ったってわからない。
好きな女一人抱けない意気地なしのいう事なんてわかってあげない!」
「っ・・・・・・」
横っ面を引っ叩かれたような思いがした。
本当だ。彼女のいうとおり、俺は意気地が無い。