彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
悪いことはしたけど、『あいつら』に対して悪いとは思わない。
だって。
「人の痛みがわからない奴は、自分が同じことされないとわかりませんよ。」
「ほぉーう、つまり?」
「自分が痛い思いをしてやっと、後悔するんです。」
あの手の人間が、後悔するとは思えない。
でも、
「これでやられる痛みは覚えたでしょう。」
「やられる痛み、ね・・・」
ニヤニヤしながら、私の言葉を復唱する男前のお兄さん。
笑われた気がして、視線をそらしながら言った。
「・・・庄倉はどうでもいいですが、窃盗は無理です。そもそも、私はバイクの免許ないんですから。」
「はあ?まさか、そんな理由で自転車特攻したのか?」
瞬きしながら聞く男前に私は告げる。
「それも理由です。仮に盗んだとしても・・・運転できません。使えないならガラクタです。無理して乗れば、それこそ円城寺君を怪我させます。その点、乗り慣れた自転車なら、さらに骨折させなくていいでしょう?」
真面目に説明すれば、それで相手は黙り込む。
瑞希お兄ちゃんともう一人のお兄さんも、息をのんだような顔で静かになる。
(あれ?変なこと言ったかな・・・?)
そう思った瞬間、平凡な空気が変わった。
「「「ぶあーはっはっはっ!!」」」
「え?」
その沈黙は、煙草をくわえたお兄さんの爆笑で終わる。
「あっ・・・あははは!!ガラクタ・・・ぶははは!つぼった!!」
「ええ!?私もしかして笑われてる!?」
「お、お腹痛いわ・・・ひひひ!!」
「ええ!?もう1人のお兄さんまで大うけ!?」
「ははは!はーははは!面白いな、お前!」
「瑞希お兄ちゃんまで―――――――――!?」
意味がわからなくて、眉間にしわを寄せていれば、呼吸を整えながら彼らは言う。
「ひひひ!悪い、悪い!オメーがあんまりにも変わってて・・・瑞希~どこで知り合ったんだよ?」
「くっくっくっ・・・!え?どこって?」
その問いに、目じりの涙をぬぐいながら聞く瑞希お兄ちゃん。
それにもう一人の綺麗なお兄さんも聞いた。
「ごまかさないでよ~!『瑞希お兄ちゃん』って連発しっぱなしだろ~?どういう関係?」
「そ、それは!!」
「どうって言われても~」
赤面する私の正面。
カウンター越しで、ほんわかとした顔の瑞希お兄ちゃんが告げる。
「わかんねー」
「・・・・・・・・・・はい?」
わかんねー・・・・?
「『わかんない』、だ?なによそれ、瑞希?」
「そうなんだよ!それも含めて聞こうと思って連れてきたわけだが・・・」
煙草をくわえた男前の問いに、無垢(むく)な顔で私にたずねる瑞希お兄ちゃん。
「オメーどこの誰だっけ?」
「・・・・。」
無邪気な顔と言葉に、時の流れは残酷だと私は思う。
同時に、【無邪気=残酷】だとも、インプットした。