彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
覚えていた。
あんなに優しくしてもらえたから。
覚えている。
あれだけ親切にされたから。
瑞希お兄ちゃんに出会ってから、彼のことを忘れた日はなかった。
しかし、そのことに関する認識が一部変わった。
(私が覚えていたからと言って、彼も覚えているとは限らないということを・・・!!)
「ひでぇな。」
「ひどい。」
「下種だ、下種。」
「記憶回路がショートしてる。」
「うるさいぞオメーら!!」
瑞希お兄ちゃんの「お前は誰?」発言から数分後。
瑞希お兄ちゃんの発言に打ちひしがれ、カウンターの机に頬をつけて落ち込んでいた私。
そんな私を、後始末を終えて合流した2人のお兄ちゃん達を含めた4人のお兄ちゃん達が慰めてくれていた。
「見ろ、瑞希!お前が無神経なことを言うから、落ち込んでるじゃないか?」
「さいてー!デリカシーが、なーい!」
「そ、そんなん言ったって、わからなかったから聞いただけでー!」
「聞くのはいいけどな、瑞希。聞き方を考えようぜ?」
「無垢な顔で質問するのはアウトだろう。」
「だ、だって・・・!」
「も、もうやめてくださー・・・い・・・」
仲間の言葉で追いつめられる瑞希お兄ちゃん。
その姿に耐え切れず、涙腺が緩みっぱなしの顔を上げながら言った。
「みなさん・・・うう・・・お気持ちは十分ですので、やめてください。瑞希お兄ちゃんを、いじめないでー・・・!」
「お、お前!」
「覚えてないなら、仕方ないです・・・」
(そうよね・・・6年前に一回しか会ってないなら、覚えてないのも仕方ないか・・・)
「ですので改めまして・・・」
丸まっていじけていた体を起こすと、背筋を伸ばして瑞希をお兄ちゃんを見ながら言った。
「その節は・・・助けて頂き、ありがとうございました・・・!!」
「え!?助ける!?」
「え?何お前?鶴の恩返し的なことをしたの?」
私の言葉に瑞希お兄ちゃんは困惑しっぱなし。
そんな瑞希お兄ちゃんへ、私を気にしながら煙草をくわえたお兄ちゃんが小声で話しかける。
それに答えることなく、瑞希お兄ちゃんはつぶやく。
「助けたって・・・」
私を見ながらお兄ちゃんが聞いてきた。
「どういうことだ?」
「はい・・・」
(やっぱり、覚えてないのか。)
最後まで期待していただけにがっかりする。
そんな気持ちをこらえて、私は答えた。