彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
私が今までいた位置で、百鬼が腕をフルスイングしていた。
(あのまま髪を掴まれたら、顔面をやられてた・・・!)
「おらっ!!」
「皇助!?」
「っ!?」
(え!?闘う気!?)
仲間の声をよそに、こちらへ突進してきた。
(背後は、カウンター席!左右、どちらかに逃げればいいが・・・)
この距離。
(大柄なあいつだと、どっちに逃げても捕まえられる。)
だから。
「砕けろや!!」
「はっ!」
もう一回向けられた拳をよけて、カウンターの上に飛び上る。
「逃げんのか!?」
(そうだよ!!)
心の中で叫んで、今度は私から百鬼に突進した。
「ほお!?正面勝負か!?」
「そんなこと・・・・」
両手を伸ばしてつぶやいた。
「するか。」
「なっ!?」
お互いの顔が間近にせまる。
私の視界に、逆さ姿の瑞希お兄ちゃん達が映る。
「後ろ飛び!?」
「皇助の頭の上でバク転しやがった!!」
「うが!?」
私の体重で、百鬼の体が沈む。
「はぁ!」
(さっきのお返しじゃないけど―――――――――――!)
ブリッジ姿勢で、百鬼の後ろへと落ちていく私の体。
地面へと着地する勢いを生かして、蹴り飛ばした。
狙いを定めた場所。
「ごめんなさい!!」
ドスッ!!
「がはっ!?」
謝罪して、百鬼の背中に衝撃を与えた。
「くっ・・・!?」
(手ごたえはあったけど・・・!)
数歩、後ろに飛びのいて、百鬼と距離を取って構える。
(めちゃくちゃ筋肉が硬い!攻撃がきいてないかも・・・!?)
そんな予想通り、男は前かがみから身を起こす。
「くっくっくっ・・・!やるじゃねぇか・・・・!?」
(きゃあああああ!?)
野獣が、別の何かに進化した気がした。
〔★悪い方向だった★〕
(あ。これ死んだ・・・・?)
自然と体の力が抜ける。
同時に、体が震えそうになる。
こんなところでブルブルしたら、それまでの強がりがバレちゃう。
これを誤魔化すように、一度、構えた姿勢を解く。
体をほぐすふりをして、両手をブラブラ振って気を紛らわす。
自然と表情から感情というものが消えていく。
多分、今の私は無表情だろうな。
それでも・・・
「良いメンチだな・・・!?」
相手への視線をそらさなかった。
だってさ、言うじゃない?
(獣から視線をそらしちゃいけませんって・・・)
〔★凛は人間扱いをやめた★〕
ぼんやりと考えながら、そろそろ構えようかとした時だった。
パチパチパチ!
「え?」
緊迫した部屋に鳴り響く音に、私の意識はそちらへと向いた。