彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
私と視線を重ねたまま、彼は言う。
「『龍星軍』の看板は、意外と重い。隠れた敵もいる。そいつらにニラミをきかせて、やっていける覚悟はあるか?」
今までの優しさが嘘のような厳しい顔と声。
それだけ、総長になることは大変なのだと知る。
昨日まで、ヤンキーでも何でもない女子が簡単に引き受けていいものじゃない。
「痛い思いや大怪我をするのも当たり前だ。泣き言いれられねぇし、弱みを見せちゃいけねぇ。断るなら今の内だ。」
「瑞希お兄ちゃん・・・」
そこまで言うと、私を見据えながら言った。
「俺自身が関わってるっていう理由抜きで、凛は総長ができるか?『男』を見せられるか・・・!?」
男・・・
(・・・無理だ。)
私、男じゃなくて、女の子・・・
(それは無理・・・)
無理だけど・・・
「『俺』はー・・・・・」
男子になることはできない。
だけど、瑞希お兄ちゃんの側にいたい。
二度と離れたくない。
そのための手段なら―――――・・・・・!!
好きな人が望むなら。
(男を演じるのは、無理じゃない。)
「大丈夫です。瑞希さんに、きっちり『男』を見せます。」
それで、愛しいあなたの関心が私に向くなら。
「俺を、『龍星軍』の頭にして下さい。」
暴走族の総長になる。
「・・・それが凛道蓮の答えか?」
「はい。俺の答えです・・・!!」
その会話を最後に、誰も言わなくなった。
チクタクと、部屋の時計の針だけが響く。
「わかった。」
沈黙を破る声。
薄らと、口元だけで笑う瑞希お兄ちゃん。
その表情に、雰囲気に、体の芯からしびれた。
初めて経験する甘い快感。
「お前が次の頭・・・・4代目『龍星軍(りゅうせいぐん)』総長・『凛道蓮(りんどうれん)』だ。」
「瑞希お兄ちゃん・・・。」
「任せたぞ、4代目?」
そう言って、差し出された手。
無意識のうちに掌を重ねる。
(これで。)
強く握ってくれる手に、私も力を込めた。
(これで私は、瑞希お兄ちゃんの側にいれる。)
愛しい人の側に。
『爆裂弾』と『羅漢』の『龍星軍』後継者をかけた戦いは、『爆裂弾』の勝利で幕を閉じた。
4代目となる『龍星軍』総長となったのは、流星のごとく現れた人物。
華奢な見た目に反する腕っぷしの強さ。
綺麗な言葉づかいと、型破りな行動をとるマスク野郎。
その名も『凛道蓮』。
初代『龍星軍』全員が認めた漢。
そんな噂が町中に広がるまでに、それほど時間はかからなかったという。
~恋の近道、ヤンキー街道の章~完~