彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
「俺は・・・・俺らは、最初から誰にも『龍星軍』を継がせる気はなかったんだ。」
「えっ?」
「誰も、選ぶ気はなかった。」
「ええっ!?」
瑞希お兄ちゃんの言葉に、驚きの声しか上がらない。
(それって、今夜の『龍星軍』争奪戦の勝者を決める気が、なかったってこと・・・?)
「・・・冗談ですよね?」
「マジだ。」
少し茶化しながら聞けば、ガチで言われた。
真面目に語る瑞希お兄ちゃんの姿に、それが真実だと悟る。
「・・・合格者を出す気はなかった。円城寺の熱意は本物だったが・・・継がせるのはあまりにも・・・・・」
(嘘でしょう・・・?)
同時に疑問が沸き起こる。
「どうして・・・継がせる気がないのに、ガチンコバトルをしたの・・・?」
(それなら、最初からしなきゃいいじゃない!)
そうすれば、カンナさんは髪をめちゃくちゃに切られなかったし、円城寺君だって大怪我しなかった。
誰も傷つかなかったのに―――・・・・!?
”合格者を出す気がなかった”
(・・・出す気がなかった、ですと・・・?)
頭に響く瑞希お兄ちゃんの言葉。
引っかかる単語。
(誰にもやらせたくなかったのに、それをやったということは・・・?)
「なにか、事情があるんですか・・・?」
しなければいけない理由と、出来ない事情。
「瑞希お兄ちゃん達のチーム『龍星軍』を、継承させたくない事情があるんですか?」
彼の言い方だとそうなる。
(そうとしか、考えられない。)
私の質問に瑞希お兄ちゃんは黙った。
同じように、他のお兄さん方も答えない。
沈黙の中で、時間だけが過ぎる。
その静かさは、私に不安しか与えない。
なんとか、この時間を終わらせようと口を開く。
「・・・『たくさんありすぎて説明できないの?』」
耐え切れずに聞いた。
特別な意味なんてなかった。
ところが、それで瑞希お兄ちゃんの眉間にしわが寄る。
「・・・凛?」
瞳を曇らせ、明らかに戸惑っていた。
(あ、怒った!?)
怒らせたかもしれない!
変化した瑞希お兄ちゃんの態度。
そう思ったので、すぐに謝った。
「ご、ごめんなさい!余計なことだったよね・・・?」
ペコペコしながらお詫びすれば、
「そんなことねーよ。」
首を横にふってから、瑞希お兄ちゃんは言った。
「懐かしいな・・・」
「え?」
「そのセリフ、前も言ったよな?」
「・・・?」
(前にも・・・?なんのことだろう??)
何のことかわからず、首を傾げれば瑞希お兄ちゃんは笑う。
「凛の言う通りだ。」
「え・・・?」
私の言う通り?
(やっぱり、何かあるんだ・・・!)
そう確信しながら瑞希お兄ちゃんを見る。
これを受け、キッチン台に片手をつきながら瑞希お兄ちゃんは言った。
「ちょっと、凛には刺激が強い話だけど・・・4代目する以上は、聞いといてくれ。」
どこか重たい口調で告げると、瑞希お兄ちゃんは語り始めた。