彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
店内にこだまする大音量。
おかげで会話は、一時中断される。
その間に瑞希は、業務用冷蔵庫からミルクを出す。
人数分の空(から)のカップをキッチン台に置く。
豆が粉に代わり、音がやんだところで、彼らはいっせいに口を開いた。
「甘ったれなんて、冗談じゃないっすよ!あたしら、『凛道蓮は爆裂弾のメンバー』だって耳にしてから、しらみつぶしに奴を探したんすよ!学校サボってまで!」
口をへの字に曲げて反論するカンナ。
「俺ら、何もしなかったわけじゃないです。大河とカンナが、あいつと初めて会った公園周辺を中心に町中を聞いて回りました。」
比較的落ち着いた声で話す秀。
「俺んちの大福まで連れ出したんすよ!あ!大福っては、マメシバの雄です!そんでもって、似顔絵も用意したのに・・・!」
興奮気味に意見する悠斗。
「それなのに『凛道蓮』は見つからなかった。」
全員の話をまとめながら、静かな声で大河は語る。
「俺ら、12の時から、この業界にいるけど、あんな奴見たことない。」
「ハハハ!もっと早くからグレてたんじゃねぇーか?」
「茶化すなよ!」
不真面目な話の聞き方をする瑞希に、つっかかる大河。
けわしい顔でさらに話す。
「俺はあいつが、『凛道蓮』だという名前であることさえ、知らなかった。あいつは最初から、名乗りさえしなかった・・・名乗らなかった!いくら探しても、『凛道蓮』って奴がどこのだれかわからねぇ・・・!」
「お前らの探しが悪いんだろう?」
「俺達だけじゃねぇ。」
カウンター越しで立ち上がると、瑞希のいるキッチンへ身を乗り出す大河。
「『凛道蓮』を探してるのは、俺らだけじゃねぇ!」
「くっくっくっ・・・わかってるよ。」
真顔の大河に対し、瑞希はヘラっと笑う。
「『羅漢』がお礼参りしたくて狙ってるんだろう?人のものばっかり欲しがるあの馬鹿共はよー」
羅漢への侮蔑(ぶべつ)を込めた発言。
「尾ひれのついた『龍星軍』のなにがいいのか、目の色変えて、みっともないったらありゃしない。」
大河達のことではないと、彼らもわかってはいた。
わかってはいたが・・・
「悪かったな・・・その馬鹿にお返しが出来てない大馬鹿がここにいてよ・・・!?」
やられっぽなしで、むしゃくしゃしていた大河からすれば、瑞希の発言はキツかった。
そう言って、大河が自分をけなせば−−−−
「お前は違う。」
「な!?」
断言された。
「お前と庄倉じゃ、『人間のレベル』が違う。わかるな、10点満点?」
空のカップにコーヒーを注ぎながら言う瑞希。
その顔は、笑ってなどいなかった。