彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)





その時の私は、自分の状況をうまく説明できるほど冷静じゃなかった。





「お・・・おいおい、どうし・・・!?」

「口を開けば、いっつも、いっつも、喧嘩ばっかり!」





関係ない人相手に怒る。




「相手の悪口ばっかり!私は聞きたくないって言ってるのに聞かない!!」





全く関係ないお兄ちゃんに怒りをぶつける。





「もう聞きあきた!!」

「おい・・・」





普段出さない大声を出して、テンションもおかしかった。

止められない苦痛が口から吐き出された。





「何でいつも、お父さんとお母さんの愚痴を聞かなきゃなんないんだよ!?いい加減にしやがれくそ野郎共っ!!」





そこまで言って、肩で息をする。

とまっていた涙が流れ出す。

周りの人間すべてが、私を見ているのはわかったが・・・









「何見てんだ?」


「ひっ!?」

「わあ!?」



「え・・・?」






お兄ちゃんの、ひと睨(にら)みで全員が黙った。





「ひっ・・・!?」

(こわい・・・・・)





その時、私が見たお兄ちゃんは、鬼と言ってもいいぐらい怖い顔だった。

さっきまでの優しい顔ではない。





(・・・ジギルとハイド・・・)





学校で感想文を書くために読んだ本を思い出した。

今のお兄ちゃんがまさにそれ。

呆然として見ていれば、私の視線に気づいたお兄ちゃんがこっちを向く。







「えらいな、お前。」

「え・・・!?」

(・・・えらい?)






誰が?


私を見ながら言ってる?






(私?)






無言で聞けば、ニコニコしながらうなずかれた。





(えらいって・・・・偉い?)




すぐれてるって意味の?




そう考えながら固まっていたら、相手は手を動かす。


細い指が私の目元のしずくをぬぐう。



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