彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
「な、何の真似だオメー!?」
攻撃を受けると思っていた可児が、目を見開く。
その様子を見ながら、数歩後ろに後退して離れる。
誰が見ても、私の戦意喪失はあきらかで、可児の表情が悪くなる。
「おい・・・テメーまさか!?俺に情けをかける気か!?」
「いいや、瑞希お兄ちゃんを悪くいう奴は全部的だ。」
温情など与えるつもりはない。
「その仲間も、俺にとっては敵だが・・・」
そう伝えた後で、私を見上げる相手に告げる。
「俺も、女子供は殴らないようにしてるんだ。」
「・・・は?」
そう・・・君は、女の子に手を出さないと言った。
女はズルくて、可愛い生き物。
私は女だから、女がどういう者か知ってる。
だけど君は、無条件で、『してはいけない線引き』をしていた。
カンナさんみたいな子ばかりじゃないけど、君は筋を通してくれた。
「君の方が硬派だよ、可児良信君。」
笑顔で、それだけ伝える。
今度こそ背を向け、可児から離れた。
私を心配している女友達の側に行った。
「凛!お前・・・・」
「トンファー、持っててくれてありがとう、カンナさん。」
手を差し出しながら言えば、一瞬、戸惑った後で渡してくれた。
「凛・・・お前、お人好しすぎ。」
小さい声で、ぼそりとつぶやくカンナさん。
それに同じ声の大きさで答えた。
「気のせいだよ。」
そんなわけない。
私は、良い人じゃない。
良い子なら、ここにいない。
こんなことしてない。
瑞希お兄ちゃんにさえ会えなかっただろう。
「ただの優柔不断だよ。」
目を丸くするカンナさんにそう答えたが、彼女の耳に届いたかは、わからない。
「こらお前ら!!なにしてんだ!?」
私が言い終わるかどうかのところで、私の言葉を野太い声がかき消したから。