彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
ぼんやりとお兄ちゃんを見つめていたら、ギュッと抱きしめられた。
「普通なら、我慢できないのに、よく頑張ったな。えらい、えらい。」
「・・・怒らないの?」
いつも。
いつも、相手の愚痴しか言わない両親に、そんな話はやめてと言った。
それに彼らは、聞く耳を持たない。
だから、ここまで言い切った時、怒られると思った。
今叫んだことを。
関係ないこの人に言ったことを。
言ったことを、やった後で、そのことを後悔していたのに・・・
「怒る理由がねぇージャン?」
私の言葉は、笑って流された。
「よし!今夜は、お前の気がすむまで付き合ってやるよ。」
そう言って私の頭を撫でてから、ゆっくりと膝から降ろしてくれた。
呆然とお兄さんを見ていたら聞かれた。
「そういや、名前聞いてなかったな?なんて言うだ?」
「・・・凛。」
目線を合わせるため、屈みながら聞く相手に私は告げた。
「菅原・・・凛。9歳。」
「『りん』か・・・良い名前だな。」
満足そうに笑うと、また私の頭を撫でる。
撫でながら、形の良い唇が動いた。
「俺は、瑞希(みずき)って言うんだ。よろしくな、凛?」
ニコニコしながら言う相手に、やっぱりお姉さんにしか見えないと思った。