彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
「伊吹陽翔さん、あなたの分まで、俺が瑞希お兄ちゃんの側にいます。」
最初から、それが理由だった。
瑞希お兄ちゃん探しを、親に内緒にしたのも、変装したことも。
暴走族の頭をすることだってそう。
(好きな人の側にいたいだけだったから・・・・!)
男装してまで手に入れた居場所。
欲深い私の望み。
「俺が人間界で瑞希お兄ちゃんは守るから、あなたはそっちの世界から、瑞希お兄ちゃんを守ってください。嫌いになったんじゃなきゃ、できますよね?」
挑発するように、何も言えない相手に『漢』らしく告げる。
「気に入らねぇから祟るって言うなら、瑞希お兄ちゃんじゃなくて俺のところに来てください。悪霊一つ跳ね返せなきゃ、4代目は務まらない・・・!真田瑞希さんのお墨付きを、証明できませんからね!?」
ピシャッと言い放てば、私の言葉を最後にまた墓場は静かになった。
「凛・・・・」
「凛たん。」
「凛ちゃん・・・!」
「やれやれ、凛道め・・・」
「わはははは!オメーが言うことは、瑞希のことばっかだな、凛助!?」
「悪いですか!?」
一瞬静かになったけど、私の名前を呼ぶ瑞希お兄ちゃん達の声で元の空気に戻る。
「俺は、2代目の先輩にあいさつしただけですから!」
自分でも、可愛げがないと思う言い方をしてから、花筒の側にあったマッチで火をつける。
その炎を細い線香の先にあてる。
煙が出るのを確認してから、マッチの火を消す。
無言で、墓前へと線香を供えた。
「凛・・・あのさ・・・・」
後ろから、瑞希お兄ちゃんが何か言おうとしてる。
でも、振り返ることが出来なくてその場に座り込む。
鼻水のおじさんがしたみたいに、目をとじて手を合わせる。
(ごめんなさい・・・)
何度も知らん顔して、ごめんなさい、瑞希お兄ちゃん。
嫌いにならないでください・・・!
こっそりと、好きな人に向けて謝る。
(ごめんなさい・・・)
きついこと言ってごめんなさい。
瑞希お兄ちゃん以上にあなたも・・・伊吹陽翔さんだって、本当はすごく無念だってわかってます。
なにもできないあなたに、ひどいこと言って・・・
(ごめんなさい・・・・!)
目の前で眠る故人に、深く、深く謝罪した。