【完】ヴァンパイア、かなし
「……っ!どう、して?」


血を摂取したからもう体は痛くない。立ちくらみも。なのに、視界が霞んで熱いものが込み上げる。


泣いている。ぱたぱたと落ちる温かなものが涙だというのに気付いた。何故泣いているのか自分でも分からない。


涙が落ちれば落ちる程に胸が苦しくて、ぎゅっと何かに絞られて行く。


手の甲を押し付けてそれを拭ってみれば、ぼこぼことしたものが頬に触れた。


先日気付いたミミズ腫れ。それは、治るどころか日に日に広がっているのだ。もう、隠せない所まで僕を蝕み始めている。


せっかく幸せを知ったのに僕は得体の知れない何かに蝕まれて行く。その幸せを、嘲笑うように。


涙が流れる時は、頭の中には膨大な情報が流れるものだ。


僕が知らなかったクラスメイト達の笑顔、優しさ、温もり。その先には、荘司先輩のふにゃりとした笑顔や二階から飛び降りる姿、強引に手を引くその手の硬さや力。


そして、最終的には和真先輩の全て。凛とした横顔も、笑顔も、泣き顔も、余す事無く全てが僕の頭を支配する。


ああ……和真先輩を食べたい。弱った僕は化け物に脳髄をコントロールされている。和真先輩が狂おしい程、欲しい。
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