【完】ヴァンパイア、かなし
家に帰ると、リビングには重苦しい空気が漂っており、この時間に珍しく母がいた。
「ただ、いま」
「エルザ、そこに座りなさい」
父が僕をオフホワイトのソファーへ座るように促した。この重苦しい空間に出来ればあまり触れたくないものだ。
しかし、普段穏やかな両親がこれだけ重苦しい空気を出しているのだ、逃げる訳には行かない。
「……エルザ、私達に隠していることがあるわね?」
話を切り出したのは母だった。
隠していることと言うと、この腕から体中に広がり始めたミミズ腫れの事だろう。
多分何を言っても隠し通す事はもう出来ないのだ。この空間の雰囲気がそれを物語っていた。
「何の、事でしょう」
それでも僕は言わない。それが小さな子供の吐く嘘のような見え透いたものだと分かっていても、口を割らない。