【完】ヴァンパイア、かなし
「はーあ、スカートって楽なもんだと思ってたけどそうでもないやー。ゴムが細いの」
音楽室にたどり着き、ようやく履いていたひらひらのスカートを脱いだ荘司先輩に、あえて女性用だからでは、という事は言わずに僕は展示にかけられたヴァイオリンに触れた。
「そう言えばエルザってヴァイオリンが得意なんだっけ。和真だけ聴いてて俺は聴いてないなんてズルいなぁ」
「良く言いますよ。そんなに仲が深くないうちに無理矢理ギターで弾き語りさせたくせに」
思い出すと笑えてしまう。強引だった先輩達にも、それに流された僕にも。
「……じゃあ、今ならちゃんと頼めば無理矢理にならない?」
荘司先輩の方がよっぽど狡い人だ。荘司先輩は僕にとって、和真先輩と同じくらいに大切な友人なのだから、断れる訳がない。
「今、ですか?今だと音でバレちゃいますよ?」
「バレた時はその時でしょー。何とでもなるよ。冒険冒険!」
この人は潔いくらいに『今』しか生きれない人だ。
僕も、分からない先の事より今を大事に出来るようになりたい。この人を見本にしてしまうのはどうかとも思うけれど。