【完】ヴァンパイア、かなし
誰かの為に弾くこの音は、いつもよりやけに優しい音を出す。


この展示されていたヴァイオリンは、父が創り出した物だ。


昔から弾きこなした、父の癖の出たこのヴァイオリンが、こんな風に音を出すことを初めて知った。いや、これがこのヴァイオリンの本当の音なのかもしれない。


「おい、なんか聞こえてこない?」


「誰あれ?キレー」


僕の音に誘われて、準備をしていた他の生徒達が一人、二人と集まってくる。


「やべっ……!エルザ、ひとまず退散だ!」


「はいはい」


ヴァイオリンを元の位置に戻すと、荘司先輩はまた僕の手を掴み、生徒達の脇を縫ってそこから僕をさらい出す。


「あはは!エルザが凄いからサボりなのに目立っちゃったー」


「……ふっ!誰の、せいですか」


荘司先輩といると、自然と表情も緩やかになる。化け物と共に鎖で縛られていた僕が、助け出される。


「お、エルザの素の笑顔ー!はは、兄ちゃん嬉しいなぁ」


そうか。多分僕も嬉しいのだ。この人とこうして笑えるこの瞬間が、嬉しい。
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