【完】ヴァンパイア、かなし



結局荘司先輩が人目に付かないと考える場所は応援団の部室で、僕達はそこへ逃げ込んだ。


「あーあ、もっと聴いてたかったなぁ。残念」


ひゅーひゅーと喉を鳴らして呼吸を整えながら笑う荘司先輩は、反省の色等微塵も無い。


「そんなの、いつでも出来る事でしょう」


「いつでも……うん。そうだな」


少し考えるように溜めて答えた荘司先輩に眉を寄せて目線を送れば、荘司先輩はふにゃりと柔らかな微笑みを返す。


「いやね、エルザ、この短期間に変わったなぁと思って。お前から『いつでも』なんて言ってもらえるなんてなー」


指摘されて、自分でも驚く。誰かと深く関わることをしなかった僕が、こんな事を何も考えずに言う日が来るなんて。


「なぁエルザ、すっげー突拍子もない事聞いて良い?」


「何です?突拍子もない事を聞いたり言ったりやったりするのはいつもでしょう」


和やかな雰囲気の中、いつものように思った事をはっきり言って答えれば、荘司先輩もいつものようにへらへらと笑ってそのスポーツ刈りの頭をガシガシと掻く。


「エルザは、和真の事好きか?」


本当に、これまでの流れからは飛び出し得ない突拍子もない質問で、思わず「はあ」と間抜けな声が出てしまう。


でも、ふにゃふにゃとしたその笑顔の目の奥は、いつもより彼の考えていることを読めない。
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