【完】ヴァンパイア、かなし
文化祭前夜、僕は暗闇をさ迷う夢を見た。
クラスメイト達と輪を作り、作戦を立て、自分の足で家へ帰り、パックで血を摂取して僕は眠りに就いた筈。
だから、この暗闇は夢だ。何も怯えることはない。
狭い視界を何とか進むと、白い肌の何かが暗闇の深い場所で膝を抱えていた。
その何かは人の形をしている。そっと顔を上げた顔に付いた目は、血潮の透けた赤い色。暗闇に、鮮やかな赤がぎょろりと浮かぶ。
「食べたい。あの人を、食べたい。甘い香りのする首筋から、思ったよりも柔らかかった二の腕からでも良い。細く頼りない腰からしゃぶりつくのも悪くない」
「……嫌だ!違う、そんなこと」
「思っているよ。君は僕。僕は君。いくら蓋をしても、僕は君の中にいる」
暗闇に浮かぶ赤は、やけに湿った色をして、彼女を求める。長年腹を空かせた獣のように。
こんな物は僕じゃない。僕は、僕は僕は僕は……!