【完】ヴァンパイア、かなし
空間が、嫌なざわめきで包まれ始める。


進行人が不安そうに目を泳がせ、ステージ裏へと引っ込んだ。


「団長達……どうしたんだろうね」


隣にいるクラスメイトの彼も、自分の先輩である二人を心配して、不安そうな顔だ。


何だかとても嫌な感じがする。荘司先輩はともかく、和真先輩が困っているような、そんな気がする。


「ごめん、僕、行かなきゃ」


「え?ちょっと、エルザ」


考えるよりも先に、体が動き出した。僕を救い出してくれたあの人達が困っているのに、じっとしてはいられなかった。


体育館からステージ裏へと入れる扉を躊躇い無く進むと、そこにはプロデュース企画の人間と、次のステージに立つ軽音部がいる。


狭いステージ裏の一番隅。そこに、紙袋を口にあてがう女子生徒と、その彼女の背中をさする和真先輩、それから、珍しく焦りの色を顔に滲ませた荘司先輩の姿を確認した。


「ごめっ……!ごめん、な、さっ」


息を切らし泣きながら謝る彼女に、何となく読めてしまった状況。


おそらく彼女は極度のあがり症なのだろう。本番を目前にして、そのあがり症で過呼吸になったのだ。
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