【完】ヴァンパイア、かなし
「お節介だっただろうけど……今、私の大切に想う彼は、幸せそうに笑っている。最終的に何か私がしたわけじゃなく、彼自身が自分で歩き出したんだ」


お節介だったよ。でも、そのお節介にどれだけ救われただろうか。言葉には出来ない。言葉に出来る程、僕は言葉を知らないのだから。


「きっと此処にいる人皆が、大なり小なり悩み事を抱えているだろう。私もその一人だ。私は彼と関わることで学んだ事がある」


十月の、もう十分に冷たい夜の風に靡く和真先輩の髪は彼女の言葉のように綺麗だ。さらさらと、迷い無く向かう方へと流れている。


「それを解決出来るのは、視野の広い人間なんだ。自分の想いだけじゃなく、周りを見渡せる人間なんだと、気付く事が出来た。……だから、皆も困った時は、前ばかりじゃなく色んな方向から物事を見て欲しい」


和真先輩の言葉はいつも遠回りせず、僕の胸の奥を突き刺す。きっとこの場にいる生徒達にも、同じように。


「今日という日が、皆にとって視野が広がる日になれば、と思います。そして、私が大切に想う彼にも、私のちっぽけなこの想いが伝わる事を、切に願います。……ありがとう」


深く頭を下げた和真先輩に、より一層大きな拍手が降り注いだ。


ねぇ和真先輩、貴女が想うその大切に想う彼は、僕の自惚れじゃなければ……。


どくん、どくんと心臓が脈打つ。この脈打ちの意味から、もう逃げたりはしない。
< 138 / 200 >

この作品をシェア

pagetop