【完】ヴァンパイア、かなし
「俺の初恋はちょっと遅めで中一の時でさ、相手は、クラスメイトの笑わない女の子」


一つ一つを丁寧に思い出すように語る荘司先輩。元々へにゃりとした軟体な喋り方をする荘司先輩の口調は、とても優しげ。


「昔から俺、こんなんだからさぁ、最初は絶対笑わせてやる!みたいに意気込んで、ちょっかいかけてただけだったんだけどなぁ……いつの間にか、好きになってたんだ」


恋する事は、きっかけなんて分からないもので。その『いつの間にか』が今の僕には良く分かる。


「気付いたらもう何回も告ってて。でも、その度拒絶された。ちょっかいかけてるうちに仲良くなってたと思ったのに、その時の俺は今よりガキで、その意味が分からなくて。絶対振り向かせてやるって躍起になってたよ」


嗚呼、頭が働く事がこんなにも憎らしいだなんて。この状況、荘司先輩がこの話をし出した事が、何らかの意味を持っているとしたら、彼女は……。


「想いが通じたのは、あいつが今のエルザみたいに衰弱が進んでからだった。……もう気付いてると思うけど、あいつ、ヴァンパイアだったんだ」


まさか、脳天気だと思っていた彼にこんな過去があるだなんて、一体誰が思うだろう。


「あいつから全部聞いた。ヴァンパイアは初恋の相手を吸血しないといけない事も。その他の生態系も。だから、俺はあいつが死んじまうまで毎日俺を殺せと迫ったよ。……結局俺は生きてる。分かるだろ?あいつ、吸血しないで死んだんだ。笑いながら、俺の腕の中で」


それがどれだけ苦しい事だっただろうか、計り知れない。荘司先輩にとっても、その彼女にとっても。
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