【完】ヴァンパイア、かなし
最近、一人の夜が怖いと思う事より、穏やかな時間だと思うことが増えた。
カーテンを開けると、月明かりが差し込む。満天とは言えないけれど、その周りには星が点々と光り、青白い世界はとても美しい。
「……はっ」
こんな穏やかな時でさえ、僕を苦しめる発作が起こる。心臓が収縮し、血液が回らなくなる。
それは、まだ外で歩き回る事が出来たほんの数週間前とは比べ物にならない頻度と苦しさになっていた。
間近なのだ。運命を受け入れる瞬間が。
胸を押さえうずくまると、自分の荒い息が嫌に耳に付く。生きている音。けれど、死の近い音。
死は緩やかに、僕の体中を駆け巡る。回らない血液の代わりに、僕の体中を支配する。
いっそ、誰かが殺してくれれば良いのに。苦しくて、助けを求めるように動いたミミズ腫れが駆け巡った左手が空を切り、窓に触れた。
そして気付く。窓を何か小さな衝撃で揺らされている事に。
コンコン、というノックするような音と共に、僕は月光の光を吸い込む窓を、縋るように見上げた。