【完】ヴァンパイア、かなし
人が一番油断する瞬間は、食事を摂る時だ。


和真先輩を食べようとしているありさ先生には、僕の存在は消え去っている。


だからこの瞬間、和真先輩にしゃぶりつこうとしているその時を狙い、僕は、ありさ先生の後ろを取り、和真先輩を賞味するより早く、彼女の首筋へかじり付く。


渾身の力で振り返ったありさ先生の視線を感じた。


僕もかぶりついて肌に牙を剥いたまま、その瞳を見つめ、訴える。


天国で和真先輩と寄り添う事は無い。僕は、貴女と地獄へ堕ちる。そう、彼女の大きな黒目に。


黒に反射する、血潮の透けた僕の瞳は、僕達ヴァンパイアの汚さを象徴しているように思える。


「ああああ！私が、こんな奴に食われるなんて！食われるなんてぇぇぇ！」


じゅるりと血を啜れば、怨念のこもった叫び声が響き始めた。女性らしかった彼女は、僕に吸血されて干からび、みるみる醜くなって行く。


きっと最後の晩餐になるだろうその血は、今まで飲んだ物より遥かに香ばしく、熟し、最高に……不味かった。
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