【完】ヴァンパイア、かなし
そんな僕に、満島先輩は微笑みを携えたまま、ゴワゴワの前髪を親指と人差し指で摘まんで遊ぶ。


「俺と和真とそいつは幼なじみでな、そいつも体動かすの好きなのに、体育外だと参加出来ないからすげー嫌面だったっけなぁ」


昔を思い出すその目は、明るくて適当で軽いノリの満島先輩だとは思えないくらいに、大人びていた。


「エルザは、体動かすの好きか?」


「……いえ、苦手、ですから」


好きではないけど、ヴァンパイアの能力のせいで身体能力が高い僕は、邪気の無い笑みを浮かべる満島先輩に、『苦手』と偽ったことに少しの罪悪感で胸がちくりと痛む。


「そっか、お前細っこいもんな。はは」


僕の小さな嘘も疑わずに信じてくれる満島先輩は、学校の生徒が噂する通りの、兄のような先輩かもしれない。


「……ふっ!先輩、細っこいはあんまりです」


「お!お前、初めて笑ったな。いーじゃん。笑うとイケメン増し増しじゃん?」


そんな満島先輩に心がほぐされて、何年ぶりだろう、家族や心を許す人以外の誰かに向けて、僕も柔らかな表情を向けていた。
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