【完】ヴァンパイア、かなし
この区域は財団法人の人間である母がいるからか、ヴァンパイアも多いらしく、僕等やありさ先生の他にも数人ヴァンパイアが住んでいるらしい。


ありさ先生とは高校入学時、彼女がパックをここで飲んでいるのを偶然見つけてしまってから互いに話すようになった。


パックは一見トマトジュースのようなパッケージだから普通の人間には分からない仕様だが、僕はヴァンパイアの血が強いらしく、香りで分かってしまったのだ。


「先生に聞いて頂きたい話がありまして……」


「どうしたの?なんだか今日、紫倉君疲れているようね」


ピアノの調律を行っていたありさ先生は手を止めて、いつも持ち込んでいるカップのコーヒーを僕に差し出した。


それを受け取り、僕は昨日の先輩方との出会いと今日のこと、それから、赤嶺先輩へ抱いたあの感覚を一通り話す。


「そう……紫倉君はまだ、知らないのね」


「知らない、とは?」


話を全て聞いたありさ先生は、何かを考え込むように顎に手を当てて目線を僕のカップを握る手へ移す。


「しかるべき時が来たら君の親御さんから説明があると思うわ。私からは説明出来ないの。……ただ、言えることは、ヴァンパイアの一種の呪いというか、そんなところね」


しかるべき時とは一体いつなのか、呪いとは何なのか、気になることばかりになってしまったが、僕が異常でないと言うことが分かった。


それなら、じたばたしないでそのしかるべき時を待つしかないのかもしれない。
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