【完】ヴァンパイア、かなし
「もやもやした時は、いつものアレ、やりましょう!」


複雑な心境を読み取ってか、ありさ先生はシフォンのような柔らかな笑顔を僕に向け、両手はパン、と鳴らす。


「はい、そうします」


同族である彼女は家族同然で、数少ない、共にいて心地の良い人。


僕も彼女へ笑みを向け、音楽室に置いてあるヴァイオリンへと手を伸ばした。


「今日は……そうね、久々に『愛の歌』でもどうかしら?」


「はは、先生、今日はやけに穏やかさを求めているのですね」


軽い雑談を挟んでいると、ありさ先生が鍵盤に細く美しい指をそっと乗せ、僕が作った曲である『愛の歌』の伴奏を始める。


僕も、肩にヴァイオリンを置き、顎を乗せ、弦を押さえて、声変わりはしたが低くはないその声で、そっとフレーズを奏で始めた。
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