【完】ヴァンパイア、かなし
得意のため息をひとつ落とし、この人達には適わないと諦めて、赤嶺先輩の方を向く。


「その手の中で丸まったクリアファイルが楽譜ですか?」


「ああ、これを手配していたら少し遅くなったんだ」


赤嶺先輩の白い手の中に丸まったクリアファイルをするりと持ち出し、楽譜を読んで歌詞と音を頭の中で形成してみる。


コードも難しいものは使っておらず、英語と日本語が入り混じった歌詞は、音符が織り成すとりわけ爽やかな音達に柔らかみをプラスさせているよう。


「……初見ですし、ギターは専門ではないのであまり期待しないで下さいね」


わくわくを孕ませた赤嶺先輩と、これから何が起きるのかと興味の感情に染まった満島先輩は、僕の言葉にうんうんと揃って首を二度縦に振るう。この二人の脳神経は繋がっているのではないかと思うくらいに、揃ったその動き。


僕はそんな二人に不思議と溢れる穏やかな感情に口元を緩ませ、鼻から抜ける小さな笑い声をふふと上げ、アコースティックギターのフレッドへと指をかけた。
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