【完】ヴァンパイア、かなし
その曲は、至極爽やかで優しい曲。僕の不慣れなギターの音と、この曲には少し合わないハリのある高音のメロディが、応援団のとりわけ大きくも小さくもない部室を包む。


歌いながら、眼鏡のレンズ越しにうっすらと目の前の二人を盗み見ると、赤嶺先輩が穏やかな表情で微笑んでいた。


それはそう、教会の窓のステンドグラスから差し込む陽の光のように、温かく、まろやかで、人々を幸福へと導く光。


意識してしまうと、僕の張りのある高音が、嫌に掠れた気がしてならない。


そうして、喉が、胃が、体の全てが、血が足りないと言うように騒ぎ出す。ざわり、ざわりと体の中に巣を作る得体の知れない化け物が、騒ぎ出す。


払いのけるように、僕はギターと歌詞と、目の前で踊る音符達へと集中する。多めの前髪が邪魔をする額に、汗をじわりと滲ませながら。


嗚呼……血が足りない。ほんの二日前にパックを飲んだというのに、何故なのだろう。
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