【完】ヴァンパイア、かなし
この人達を見るとじくじく痛む胸の中の何かから目を逸らし、僕はため息をつく。


「……で、何故、僕は歌う必要があったのでしょうか?」


「え?特に意味は無いぞ?エルザの凄さを、ただ荘司に味わってもらいたかっただけだが」


そう言ってのけた赤嶺先輩は真っ直ぐで、真っ直ぐすぎて返す言葉さえ見つからない。


まだドバドバと涙を垂れ流している満島先輩は、部室にあった誰かの箱のティッシュを勝手に使って鼻をかみ、鼻の頭を真っ赤にさせている。


「スゲーと思うよ。歌声だけで人をこんだけ泣かせられるって。そんな何でもない事みたいにするなよ。ドヤ顔のひとつでも俺達に向けろ」


家庭の都合で音楽に包まれて生きてきた僕にとっては当たり前の事だし、僕の歌声がそう特別なものだと思えないから、ドヤ顔と言われても困ってしまう。


けれど、その大きくて固くて、僕とは違い黄色みがかった肌の掌で痛いくらいグリグリと頭を撫でられると、これは自慢しても良いものなのかもしれない、なんて馬鹿げたことを思ってしまうのだ。
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