【完】ヴァンパイア、かなし
「ヴァンパイアは日本では『吸血鬼』と言われるが、実際は物語のように、人を吸血する必要が無いのはエルザも自身が身を持って分かっていることだろう」


「ええ……摂取は支給されるパックで週に一、二度。それ以外は人間と同じ食事で事足ります」


「そうだね。だから、本来我々ヴァンパイア一族は人を致死量に追いやる直接的な吸血は必要もなく、また、それは固く禁じられている」


そんなことはヴァンパイア一族にとっては常識である。でも、今そのことを父がこの場に持ち込むということは、その常識は違うということなのだろう。


「聡明なわが息子よ。きっと、その固く禁じられた掟が違っているのを察しているのだろう。……君の思う通り、ヴァンパイアは、たった一度きり、吸血を許される相手がいるのだ」


「吸血を許される、相手……?」


願わくば、許されても行いたくない行為であることだが、その先を聞かなくてはならないことは分かり切っていることだから、僕から急かすように訊ねる。


父の、血潮の色の瞳がぎょろりと僕を見据えた。やはり、願わくばこの先は知りたくない。
< 47 / 200 >

この作品をシェア

pagetop