【完】ヴァンパイア、かなし
頭に浮かぶあの人を拭うように首を振るう。


「愛おしい人なんて、そんなものはいません。お父さんの言う通り、新しい交友関係は出来ましたが、そういうものではありません」


「そうか。それなら良いんだ。もしかしたら、エルザの今の血を摂取したい気持ちは、成長期特有のものかもしれない。お母さんに後で相談しよう」


僕の答えを聞いた後の父は、もういつもの父だった。穏やかで、動きはゆったりとしている、いつものその人。


父から聞かされた話を思い出すと、頭の中にはやはり、この短期間でめまぐるしい程に僕に感情を見せつけた赤嶺先輩の顔が思い浮かぶ。


心臓が、ドクンドクンと大きくポンプし、全身に血液を回すのが分かる。それでも、僕には血が足りない。


僕の中の化け物……ああ、何て憎らしいのだろう。こんなものが表に出て来るくらいなら、僕は誰かを愛おしいと思う感情なんて、一生要らない。


僕は、この世界で人間として静かに生きたいだけだ。
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